第10回岩手公衆衛生学会総会特別講演

明日の岩手公衆衛生学会への期待

岩手公衆衛生学会 会長 角田文男


表1 岩手公衆衛生学会の歩み
総会 一般
演題数
参加者数 特別講演 当学会
会員数
演者 演題
第1回 4 190 増田 進 いま地域保健は如何にあるべきか
〜沢内村の地域医療に携わって30年
457
Ming-Ho Yu 食物・栄養とガン
第2回 17 225 丸浜喜亮 高脂血症の教えるもの 500
第3回 16 147 長沢 茂 大腸ガン検診をめぐる最近の動向 550
第4回 23 125 前沢政次 保健福祉連携の限界 560
第5回 21 126 立身政信 骨粗鬆症予防検診について 599
第6回 20 121 片山 剛 3歳児齡齲蝕有症マップを考える 595
第7回 24 122 佐藤 守 これからの地域医療、築き上げる長寿社会
〜本町の医療をベースにした保健・福祉の取り組み
560
第8回 18 123 橋本勢津 半世紀に亘った保健所活動から21世紀に向けて 560
第9回 15 84 板井一好 ダイオキシン類による環境汚染の現状 544
1.はじめに

現代社会においては、地域保健活動にしても、また衛生行政にしても公衆衛生学の科学・技術に基づく実践なくしては有効な展開を成し得ない。一方、公衆衛生学は生活環境を保全し、健康を保持・増進するための科学・技術である以上、医学の既成の枠を超えて、諸科学領域の知識・技術を幅広く取り込み同化して いく独自の総合科学を展開せねばならない。また公衆衛生学は秀れた実学であり、各地域の特性やその時々のヘルス・ニーズに適った実践から様々な研究が生まれ、それらの研究が科学的解析を踏まえて評価され、普遍化されるところに斯学の発展があると考える。
この科学的解析を踏まえて評価される場が公衆衛生学会である。周知の如く、地域特性やヘルス・ニーズは、集団・時間・場所等によって大幅に変化するため、個々の研究成果は多角的に議論を尽して、はじめて評価される。ここに、岩手公衆衛生学会設立の趣意がある。昭和の時代が、正に終わろうとする1989年(昭和63年)12月のことであった。


2.岩手公衆衛生学会の誕生から今日まで
表2 テーマ別にみた岩手公衆衛生学会誌(第1巻〜第9巻)の掲載論文等の出題数
巻数 1 4 5 6 7 8 9 1-9
地域保健 4 1 2 1 0 0 2 10
老人保健 0 2 0 0 1 0 0 3
骨粗鬆症 0 1 1 0 3 2 0 7
学校保健 0 0 0 0 0 1 0 1
環境保健 0 0 1 1 0 1 1 4
労働衛生 0 0 0 1 0 0 1 2
その他 0 1 0 1 0 0 0 2
4 5 4 4 4 4 4 29

平成元年1月に開催した岩手医科大学医学部衛生学公衆衛生学講座同門会総会において、同門会発会10周年事業として岩手公衆衛生学会の設立が提案され、物心両面からの援助が承認された。筆者が岩手医科大学教授として同講座主任に着任(昭和47年4月)以来、17年間が過ぎようとする時期であった。この頃、岩手県の公衆衛生問題は大きく変貌し、多彩な課題を抱え、そのために、専門分野化の進む各科学領域の公衆衛生関係者が一堂に会して定期的な学術の交流と共同研究を図る学会を設立し、学術総会では総合化される公衆衛生学の新しい知識・技術の研鑽を積み、各自の職務や研究に生かす必要が不可欠となっていた。
年号が昭和から平成に改元された 機会に岩手公衆衛生学会を創設すべく、平成元年末慌しく学会への入会案内を発送したところ、わずか2週間の間に四百数十名の入会申込みが寄せられ、これほどまでに多くの方々から本学会の設立が待たれていたのか、と学会設立準備世話人一同に大いなる感動を覚えさせたものである。
平成2年1月13日、盛岡グランドホテルにおいて岩手公衆衛生学会設立総会(第1回総会)が開催された。学会規約の承認、学会役員の選出、事務局設置の承認、学会事業として学術総会の開催(年1回)、学会誌の刊行(年2号)、研修会・講演会等の開催、共同研究事業等が決められた。この第1回総会から第9回総会(平成10年2月)までの各総会における特別講演の演者と題名、一般演題数、参加者数、および学会会員数を表1に示した。また表2には、岩手公衆衛生学会誌に掲載された原著論文をテーマ別にして示した。学会の会員数は毎年数十名の入・退会者をみるものの、ほぼ550名を数え、地方会としては全国でも有数の会員規模にあり、大いに誇れる学会である。各総会における一般演題数は15〜24題で、参加者数が例年120名以上を占める割には若干少ない感がある。さらに、岩手公衆衛生学会誌に掲載される原著論文が年間4編とは余りに少なく、本誌は掲載料無料(他の学会誌では十数万円から数十万円もかかる)なので、奮って投稿いただきたいものである。

3.おわりに

筆者はこの3月末をもって27年間 勤めた現職の定年退職を迎える。本総会も設立10周年という節目に当る記念すべき総会なので、自省を篭めて明日の本学会に期待したい諸点を挙げて結びとする。

(岩手公衛誌,10(2),9-11,1999.)


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