第11回岩手公衆衛生学会総会特別講演

臨床から衛生行政、そして公衆衛生学会からの学び

岩手県衛生研究所 所長 玉田清治


1.はじめに

温故知新という言葉がある。40有余年の医師生活をふりかえってみる。
臨床医から衛生行政、公衆衛生学との出逢の大部分は、岩手県である。昭和40年に臨床医として県立病院に勤務、ここで県営医療、全国自治体病院協議会を通して医療行政、病院管理とのかかわりをもった。県民の生命と健康を行政のスローガンに掲げた自治体の首長も多い。然し県民の健康取組に対する地域保健活動は、未だしの所が多かった。
レコード・リンケイジによる健康管理事業をしようと、勤務地の町長の理解のもと、県立病院の隣地に健康管理センターを建設した。コンピューターのまだない頃の出来事である。後年遠隔地から視察者が多く来たという。
盛岡保健所の運営協議会に長いこと参加した。時代の衛生行政、基本事業を垣間みることができた。懐うに最も幸いであったことは、農民の生活改善事業を通して健康づくりモデル事業に参加したことである。疫学的手法に基づき、生活、労働、衣食住にわたる実態調査、タイムスタデイによる分析、健康管理、指導である。地区民と学識者、そして関係機関および団体(農業改良普及所、農協、県立病院、役場職員等)による共同研究事業である。主役は若かりし頃の立身政信先生(現岩手医科大学衛生・公衆衛生学教室助教授)でありました。結果的にこの事業は紫波町健康づくり事業の先駆的役割を果たしました。

表1 衛生行政(平2〜平11)
保健・医療・福祉および環境政策の歩み
昭63第2次国民健康づくり対策(アクティブ80ヘルスプラン)
平2〜平11 高齢者保健福祉推進10ヶ年戦略(ゴールドプラン)
平3 (10月)廃棄物処理法
平4 ( 6月)第2次医療法改正(平5.4月施行)
平5 (11月)環境基本法
平5 (12月)障害者基本法(平7. 12月障害者プラン策定)
平5〜平12 老人保健福祉計画
平6 ( 6月)地域保健法成立(平9. 4月施行)
平7〜平11 新高齢者保健福祉推進戦略(新ゴールドプラン)
平8 (12月)生活習慣病対策
平9 ( 4月)リサイクル法
平9 (12月)介護保険法成立(平12. 4月施行)
平10(10月)感染症新法成立(平11. 4月施行)
(健康日本21プラン総合戦略)(スーパーゴールドプラン)
(ダイオキシン類対策の推進)
2.臨床から衛生行政へ

衛生行政への参入は、平成2年6月からとなります。水沢及び江刺保健所(兼務)(平2〜5)盛岡及び岩手保健所(兼務)(平6〜8)岩手県衛生研究所(平9〜11)の期間である。
少子・高齢化社会の到来、21世紀を目前にして、衛生行政はめまぐるしい程に、法的な改正が行なわれました(表1)。
医療行政、保健行政、福祉行政は勿論、環境行政も環境悪化に伴い、その改善が緊急な課題となって参りました。特記すべきものとしては、医療法改正、地域保健法、感染症新法、介護保険法および環境基本法の制定があります。一方、新興・再興感染症及び毒物劇物による生命・健康危機管理体制の確立が求められています。
江刺市に建設された産業廃棄物最終処分場は、わが国最初。
盛岡市で発生した集団赤痢、O157等は疫学の重要性を再認識する機会となりました。公衆衛生学の診断学であるといわれるゆえんでもあります。

3.公衆衛生学会からの学び

平成2年の国立公衆衛生院(特論コース)成人病(特別研修)、結核研究所での結核対策研修は、今後の公衆衛生に携さわるものとして有益な研修会であった。然し時代の流れと共に激しく変化する衛生行政には公衆衛生学の学びを避けて通ることは出来ない。日本公衆衛生学会(表2)、東北公衆衛生学会、岩手公衆衛生学会、そして岩手県公衆衛生行政セミナーはかかさないようにしている。分科会での研究発表は、実践科学、政策科学に裏づけられたものが多く、大変参考になる。


表2 日本公衆衛生学会(平2〜平11) 学会長講演タイトル
平成開催地学会長学会長講演タイトル
49 2徳島 三好 保 健康管理とライフスタイル
50 3盛岡 角田 文男公害研究の軌跡と展望
51 4東京 高石 昌弘公衆衛生領域における発育研究の意義
52 5北九州重松 峻夫日本人の寿命・世界最長寿命への軌跡と課題
53 6鳥取 能勢 隆之長寿社会のための健康づくり
54 7山形 新井 宏朋疾病管理から健康政策の推進へ
55 8大阪 多田羅浩三21世紀の地域保健
56 9神奈川曽田 研二感染症対策の新たな展望
5710岐阜 岩田 弘敏これからの公衆衛生のサイエンスとアート
5811大分 小沢 秀樹健康確保のための社会的施策の展開
4.むすび

臨床から衛生行政、公衆衛生学会からの学びを通して、地域保健活動の期待の大きさがうかがえる。多くの先達の学究的実績、実践的行動を垣間みるにつけても、衛生行政と公衆衛生学会との一体的、効率的運営がなされる必要があり、又地域保健活動の為には、地域民、学識者そして関係機関・団体の更なるネットワーク化の形成が必要である。

(岩手公衛誌,11(2),9-11,2000.)


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