農村における医療環境・医療ニーズに関する中国と日本の比較研究

劉 海波 *1 / 立身 政信 *2

*1 中国医科大学予防医学系社会医学教研室 / *2 岩手医科大学医学部衛生学公衆衛生学講座


キーワード : 医療保険制度,日中比較,農村医療

要約

 中国の農村では高齢化社会を目前にして医療保険制度や保健医療福祉サ−ビスの充実が急務である。著者らは両国の医療環境と地域住民の医療ニ−ズを比較分析し、中国における今後の保健医療福祉制度の在り方を考察するため、中国遼寧省の某鎮と日本の岩手県某町を対象に住民の意識調査を実施した。
 種々の条件は似ているが、人口は中国某鎮が約2倍多く、逆に65歳以上人口割合は日本某町が約4倍多い。両地区の中核病院は夫々40床と54床、医師数に大差ないが、中国鎮病院では医師の教育レベルが低く、看護婦数、外来患者数、入院数、病床使用率、在院日数が少ない。医療費は中国の農民は全額自己負担であり、受診に当たって「医療費の支払い」が最も気になる人が中国で29%、日本で13%となっている。医療費収入中薬代の占める割合は夫々64%と28%で、中国が高いのだが、「病院で薬を出来るだけたくさんもらったほうがいい」という質問に賛成する人は両国とも 10%未満である。また、中国では患者数が少なく、その要因として医療機関の設備や技術等の医療提供能力が低いことと、受け手側の利用能力が主に経済的理由から低いことが考えられる。解決策として、中国の農村では日本の国民健康保険と似た「合作医療」即ち協同医療を主とする医療保険が開始されようとしている。これには医療機関の適正配置、マンパワ−の確保と資質向上、診療報酬支払方法の適正化などが必要である。

(岩手公衛誌,9(1),65-72,1998.)


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