人工透析患者における心血管疾患危険因子の重要性

加藤 香廉 *1/ 大澤 正樹 *2 / 西 信雄 *1 / 岡山 明 *1

*1 岩手医科大学衛生学公衆衛生学講座 / *2 岩手医科大学内科学第二講座


1.背景

 我が国の透析症例数は2001年現在21万9183人であり、毎年約1.5万人ずつ増加している。治療困難な糖尿病性腎症・腎硬化症の原疾患症例、長期透析治療症例が増加しているが、年間粗死亡率は10年間9.4〜9.7%と上昇傾向を認めていない。1年生存率や5年生存率は改善しており、透析の向上が関与していると考えられる。
 最近10年間の死因の上位は、心不全、心筋梗塞を主とする心疾患が占め(約31.2%)、感染症がそれに続いている(図1)。また欧米のデータでは、透析患者は一般人口に比較して、性・年齢階級で調整した心疾患罹患率が約10〜20倍高いとされ、生命予後を決定するのは心筋梗塞、狭心症、心不全を含む心血管疾患の有無ともいえる。
 国内外で透析患者を対象に心疾患危険因子と有病状況とを横断的に比較し関連がみられたとの報告がある。しかし、これら危険因子の心疾患発症への影響を縦断的に検討した研究は少ない。今までの多くの研究は一施設に限られており地域における透析患者の予後を明らかにしたとは言えない。今後、大規模な追跡調査が必要と思われる。
 透析医療費の現状は、1994年の時点で患者一人あたり年間約588万円が費やされており、日本全体では約一兆円になるとされる。現在も透析人口は増加しており、医療費が膨張を続けることが予測される。疫学研究により透析患者のリスクに応じた治療が可能になれば、医療費抑制の一助となると考えられる。
 透析患者は特定の施設に定期通院するためのデータを収集しやすく、精度の高い予後調査も可能である。私たちは岩手県の全透析施設を対象に、透析患者の追跡調査を開始する予定である。

(岩手公衛誌,15(1・2),17-20,2003.)


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