キーワード:人間ドック,腹部超音波検診,スクリーニング検査,腎癌
要約
当施設の人間ドックで腹部超音波検査(以下、US)を施行した延べ143,143名中、悪性新生物と判明した症例で最も多かった腎癌45名について検討した。
発見腎癌の91%はTNM分類に準じるとT1症例で、また転移の有無について判明した25名のうち24名(96%)は転移を伴わないなどの比較的予後良好とされる偶発癌や無症候性腎癌の範疇に属する症例であった。岩手県地域がん登録事業報告書による2001年の岩手県腎癌罹患率に比較して、当施設人間ドックUSの発見率は高く、また毎年5名程度の腎癌を発見していることから、人間ドックUSは有意義であるものと考えられた。1997年から2001年の岩手県腎癌年齢調整罹患率はほぼ横ばい傾向であるが、高齢化の影響を受け腎癌粗罹患率は上昇している。今後、県医師会や行政とさらに連携し、要精査対象者への啓発活動や精査結果のフィードバックの充実など、精査から事後管理までの一貫したシステムの構築を図る必要がある。
USスクリーニングは腎癌以外の悪性新生物、さらに生活習慣病に関連する所見の発見による二次予防としての意義も大きい。人間ドックに限定することなく巡回検診として普及させることにより、更にその効果は高まるものと思われる。
検診の有効性に関する評価について、1983年の老人保健法施行に基づく保健事業(以下、老人保健事業)として導入された、一部のがん検診は充分なエビデンスがあるとされている。しかし、USスクリーニングに対するエビデンスは未だ少ないことから、今後検討を重ねる必要があると考えられた。
(岩手公衛誌,18(1),49-55,2006.)